●そのころの仲間はどういう人たち?
その仲間ってのは自衛隊辞めた連中。
辞めた連中が、半分は学生で…、学生って金がないでしょ。
そうするともう、本当に誰かバイト行かしてって…、
あと、遊びの金がとりあえずないからってんで。
で、サラリーマンになった連中はだいたい金はあるから、
そいつらはだんだんフェードアウトしていくわけ。
タカられるから。
なんだかんだ言って最終的に俺も学校入ってたんだけど…、
コンピュータの専門学校行ってて…、
前期の学費まであったんだけど…、後期の学費全部友達に食われて(笑)、
で、後期学校行けなくて、いよいよほんとのプータロー。
そのころね、いちばん実入りのいいバイトがあったのよ。
泊まりでやるガードマン。
それをね、俺が行ったの。
そしたら、これがいい金になるんだよ。
えーと…、1日5千円もらえたのかな。
48時間勤務で1泊して、そうすると5千円、その日にくれるの。
で、5千円持って帰ったら、4、5人待ってるんだよ、部屋で(笑)。
そのころは本当に…、キャベツ畑に盗み行ってた…。
(金がなくて)インスタントラーメンばかり食ってたんだよ。
そうすると、歯茎から血が止まらないんだよ。
だから、キャベツを生でかじるんだよ。すると、止まるんだよ、血が。
野菜ってすごいぞ。
そんな時代だもん。
楽しかったよ、いちばんすごい時代だったけど。
そうこうしているうちに、本宮が
お前、うち手伝ってくれよってんで、
それで本宮プロに入ったんだから。
だから、それから考えると、漫画書き出してからは、
順風満帆ってわけにはいかないけれど、
そこそこ…、仕事途切れることなく…、3年間?
『ドーベルマン刑事』まで、えーと、75年だね。
そんなに金はないけど困ってるっていう状況じゃなかったね。
確かに、すごくラッキーなわけでしょ。
いわゆる本宮プロっていうところから出てるから、
予選いらずに本戦出れるって状況があるわけだから。
いきなり編集部がやってくれるわけだから。
寄らば大樹の陰じゃないけど…、七光りで予選カットだからね。
やっぱり、そういう意味じゃあ、
本宮と西村さん、そのふたりがいなきゃ、
今の俺はないわけだからね…うん。
【編集メモ】
*『ドーベルマン刑事』1975(S50)年 36号〜1979(S54)年 48号
週刊少年ジャンプ 漫画/平松伸二
●初めてのヒット作『ドーベルマン刑事』はどんな形で始まりましたか?
そのころ、チンタラチンタラやってたら…、
平松伸二っていうすごい面白い新人がいるぞって、
平松君がまだ高校生のころで、そのころに読み切り描いてんだよ、
72年とか73年に。
で、75年になって平松君が東京に出てくる、デビューするよってことで、
(そのとき)誰かが連載休むんで、
短期集中で5週だけ書いてくれって言われたんだ。
それで、なんだかんだやってて、話が決まんなくて。
ジャンプが指定したことが…、
学園もので当時流行っていた『必殺仕置き人』みたいな、ものをできないか
って言われたの。
結局どうしてもできなくて…、締め切り迫ってきて、
最後の段階で、もう好きにやらせてくださいって言って、
当時、『ダーティーハリー』って映画があったの…、
もう『仕置き人』じゃなく刑事もので、
『ダーティーハリー』のもっとハードなやつやってやろーって。
書きたいもの書きますって。
俺の中にはちょっと毒があるわけよ。
……、人間的に持ってる毒があって、
なんて言うのか…、理想的な、人道的なものではなくて、
100人を助けるためには1人は犠牲にしてもいいじゃないかっていう、
俺の中の毒があるわけ。
それを、とりあえず否定されてもいいから出しちゃえって、
それで加納錠治っていう主人公が出て来たんだけどね。
それで、それを書いたら面白いじゃないかっていうことで、
1回目でトップか2位取っちゃったのよ、その読み切りが。
で、急きょ5回じゃなくて、連載決めってなったわけ。
ところが、5回しか想定していないから、
いきなり6回目以降も作れったって、きついわけよ。
で、大げんか。書けない、書ける、書けとかね。
もう、当時の担当とすごかったんだよ。
なんかブツブツ言ったら、
ブツブツ言わないで、書きゃいーだろ、書け、書けよ!
書きゃイーんだろ、書きゃあ!
すごい怒鳴り合いやって書いてたんだよ。
だから…、本当にラッキーはラッキーなんだけど…、
1回目で人気があって、すぐ連載が決まって、ドーンといったわけでしょ。
そうすると単行本がね、いきなり20万部くらい売れたのかな。
それで、本当に初めて見る金が振り込まれるわけでしょ。
びっくりした(しみじみと)。
だから……、いきなり金もって、
石神井公園からタクシーで運転手に、
これから熱海に行ってくれ、で、熱海で待っててくれって。
夕方行って、7、8時に着いて、芸者さんと大宴会して、
で、11時ころまたそのタクシーで帰ってくるんだよ。
当時10万くらいで、それができたのかな、うん。
1000万くらい年収なったんだよ、いきなりね。
そうすると10万円ってのは、たいした金じゃなくなってくるんだよ。
で、そのあと確定申告のときに、税金かかりますよって(笑)。
初めて知ったっていう…。
●ヒット作が出たときの心境は?
だから、そんときは無我夢中。
とにかく…、ショコショコショコショコやってても、
確かに食えはするけど、でも、どっかではじけたいって願望はあるわけ。
それはそれで、どっかで狙ってはいたし…、
とりあえず1本ヒット出て、なんとかいけるかなって感じだな。
『ドーベルマン刑事』で20枚の読み切りをずっとやったわけでしょ。
長いシリーズもあったけど、だいたい1話完結だったでしょ。
だから、それで作り方すっごい覚えたんじゃない?
週刊誌でとりあえず起承転結つけて、事件つけて、
オチつけてってやったわけだから。
今となってはとってもできないでしょ。
自分の中で、ある意味ではパワー出してたし、すごいエネルギー使ってたと思うよ。
今じゃとても考えられないぐらいね。
だから、一番勉強になった時期だね、まあ30くらいだから若かったしね。
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