【質問と解答】

Q:昨今、著作権の法律についての審議が取り沙汰されているのは周知のことですが、商業漫画等にも影響が無いことは有り得ないと察します。基準が未だ明確化されない(明確化が不可能な)現状において、創作する側、特に若い漫画家にとっては非常にナーバスな事態と言えます。
 そこで質問なのですが、一般的な編集者さん的立場から著作権の変化をどのように見てらっしゃるものなのでしょうか? 非常に答えにくい内容だとは思うのですが、先行き不安な状態に向け、少しでも考察するヒントが欲しいのです。先の「ドラえもん事件」のように悪意の有無に関わらず、金銭を含む謝罪を求められる実状。謝罪ならまだしも逮捕という形が現実化すれば、たとえ商業の漫画家でも気が気ではないはずです。よくここの質問には「模写しよう」という練習方法が示されています。自分もこの模写・模倣こそ、過去を見習い未来を創造する行為に等しいと考えます。その文化の暗黙の土台、若い漫画家が育つ土台を、金銭の問題という一元的な視点で処理する法律に疑問を感じます。是非、編集者さんからの見解を教えてくださいませ。

A:質問者の方が懸念されているのは、著作権法の非親告罪化のことでしょうか? この7月の文化審議会著作権分科会法制小委員会において、当面は基本的に親告罪を維持する方向に意見集約された模様です。著作権法は漫画やイラストに限ったことではなく、あらゆる著作物に及ぶ法律ですから、司法や行政によって恣意的に運用される危険性をはらむ非親告罪化は言論に携わる者のはしくれとして阻止しなければならないと考えます。そして、著作権者の権利を尊重すると共に表現者を萎縮させぬよう、柔軟な法の運用を望みます。
 ただ、この相談室では漫画や絵の練習方法・学習方法として模写・模倣を示していますが、それはあくまで個人的な練習過程のとして勧めているのであって、模写・模倣作品をもっての商行為を是としているわけではありません。パロディ同人誌やキャラクターの無断使用によるグッズ製作は、著作権者の権利を侵害する行為であることは認識しておかねばなりません。事件になった一部の例を除いて訴えられることがないのは、ファン活動として著作権者に「黙認」されているにすぎず、現時点においても「違法」であることには変わりはないのです。私はコミケその他の同人誌即売会の歴史を長年見てきて、パロディ系も含めた同人誌市場が若いクリエイターの大きな母体となっていることを知っていますし、知人にもそういった同人誌・同人ソフトを制作・販売している人間がいますから、同人誌市場そのものを否定するわけではありません。しかし、そこには自ずと節度が要求されるのではないでしょうか。原作品に対する悪意の有無に関わらず、本来のファンジン(ファンによるファンのための同人誌)の枠を外れた過度な商行為には規制をかけざるをえず、場合によっては法的手段に訴えることもやむなしでしょう。「ドラえもん事件」では、報道された当該同人誌の部数と利益を見れば、明らかにファンジンとしての枠を超えていたと考えます。自分のブログに無料掲載したとかなら、あのような大事にはならなかったでしょう。このような事例が続くと、出版社は同人誌即売会に対しワンフェスなどのように販売物の内容と発行部数の事前申請を要求しなければならなくなる可能性があります。もし事前認可制が実施されれば、申請を受けて審査しなければならない著作権者の負担が増大すると共に、漫画家予備軍ともいうべき若い描き手たちがパロディ系での気軽な同人活動に参入しづらくなることが予想されます。著作権法の非親告罪化にしろ、同人誌の事前認可制にしろ、そういう規制が現実のものとならないよう、著作権者の権利を侵しているのを好意で黙認されているのだと自覚しつつ、おのおのが節度を持って同人活動をしていくべきではないでしょうか。


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