【質問と解答】
Q:編集プロダクション相手に携帯配信用と雑誌の描き下ろしの仕事をしている新人ですが、2ヵ月前に送った作品が携帯配信されていないのに、次回の仕事の依頼(雑誌)がきました。担当の編集者は必ず掲載されますと言うのですが、前回のものがいつ配信かと聞いても配信はまた担当が別になるから自分はわからないと言います。原稿料の発生は配信されてからだと言います。それにいくら仕事の依頼だ、絶対掲載しますと言われても、実際は契約書もないしいつ掲載されるかわからないのです。これは仕事の依頼とはいえないと思うのですが、出版業界は特殊な雇用契約!?かと困惑しています。出版業界ではこれが普通の認識なのでしょうか。それとも仕事として発注したものの、掲載レベルではなく単に没だったと言うことなのでしょうか? 下描きのチェックまでされててそういう事もあるのでしょうか。
A:日本の出版業界では作家と編集部の間で単行本を出版する際に出版契約書は取り交わしますが、雑誌や単発の仕事の依頼では契約書を取り交わすことはまずありません。これは、海外と異なり日本では実質的に出版社がエージェントを兼ねている形態をとっていること、編集部が無償で作家育成を行っていること、作品取材やアシスタントの手配など編集部が原稿料や印税以外の援助を行っていること、そして作品制作自体編集者との共同作業であることが多いこと等の理由と出版界の歴史的経緯のためでしょうが、出版社優位の体制であることは確かに言えます。まあ、それだからこそ締め切りに遅れたり原稿を落としたりしても、遅延金や違約金を作家が払うこともないわけですし、編集部サイドも新人育成に手をかけることができているのではないかと考えます。あなたの場合、今の編集プロダクションには身内の作家扱いされて育成や売り出しをされているわけではなく契約作家扱いですので、契約書の取り交わしを求める手もありますが、出版契約に関しては担当さんではなく、おそらくあなたの面識のない別の部署の人間の管轄になります。そうなると、仮に担当さんがあなたの意を取り次いでくれても、悪くするとそんな面倒な新人なんか使うなと一喝されて切られてしまう可能性があるかもしれません。このあたりのことは会社によって管轄部署やシステムが異なりますので、担当さんに相談してみてください。担当さんにこのような交渉事の相談をしづらければ、前の原稿料が 振り込まれるまでは適当な理由をつけて断り続ける手もあります(何度も断ると見限られる可能性はありますが)。ただ、携帯配信については、おそらく編集プロダクション自体が配信を行っているわけではなく下請け仕事でしょう。相手企業の都合で配信が遅れることはままあるらしいので、編集プロダクション側も作家との間に立って困っている立場かもしれません。
出版界の仕事の依頼について少し述べておきます。雑誌への寄稿に関しては「依頼原稿」と「持ち込み原稿」の2種類の形態があります(専門用語ではなく、ここでの説明の便宜上つけた名称です)。依頼原稿とは文字通り編集部の依頼により原稿を執筆し、掲載が確約されている原稿です。連載中の作品の原稿はすべてこの依頼原稿に当たります。持ち込み原稿とは、編集部に企画もしくは原稿を持ち込んで、気に入ってくれたら掲載して原稿料を払ってくださいね、というものです。映画業界、TV業界などで行われている企画売り込みと同じです。一部のトップクラス作家を除いて新人作家、中堅作家への大抵の原稿依頼は実はこの持ち込み原稿の依頼だと考えてください。つまり、編集者が「描いてください」「お願いします」というのは企画の持ち込みをしてくださいという意味です。この場合、実際に持ち込むのは編集者が編集長もしくは編集部(編集会議)に対してですが。依頼の形はとっていても実質は持ち込み原稿なので、採用されなければ原稿料は入りません。もちろん、編集会議やコンペ等の掲載への流れと掲載予定号は依頼の段階で説明されますし、本当の意味での依頼原稿の場合もあります。作家にとって厳しい体制だと思えるでしょうが、それだけ作品クオリティを自己管理できる作家は少ないということです。また、このために新人を中心とする多くの作家にチャンスが開かれている面もあります。さて、あなたの場合は担当さんが絶対掲載と確約していることから、(それが本当なら)依頼原稿と考えていいでしょう。おそらくその担当さんに原稿採用の裁量権が与えられている増刊でしょうから、仕事として受けて損はないと考えます。ただ、この出版不況ですから増刊企画自体がポシャる可能性もゼロとは言えませんが、そこまでは担当さんも保証できないと思ってください。
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