【質問と解答】
Q:僕はまだまだ投稿経験もない漫画家志望の学生です。リアルな話、僕は将来結婚し、家庭を持ちたいと思っています。
が、漫画家の福利厚生はどうなっているのでしょうか?
先日、歳の離れた姉(既婚者)が、こう助言してきました。「あんたも男ならきちんとした保障のある会社に勤めなさい。
健康保険、厚生年金制度もない、退職金もでない漫画家なんかになって将来どうやって嫁子供を食わせていく気か!
漫画家なんてフリーターと大差ない! 確率の低い博打はやめろ!」と厳しい事を言われ途端に心配になりました。
姉に言わせれば、フリーターも芸人も漫画家も保障がなく「使えなきゃポイ」、世間で言われている「派遣切り」以下だと‥‥(あくまで姉個人の見解です)。
実際の漫画家さん達はどうされているのでしょうか? 国民健康保険に加入し、個人事業主として税金を申告し、個人年金と国民年金、
民間の生命保険会社と契約して備え、若い時に蓄えた貯蓄で老後を迎えているのでしょうか?
A:質問に答える前に言っておきます。あなたの年齢がいくつかわかりませんが、連載どころかデビューもしていないのに将来の心配をしているようなら、 お姉さんの言うとおり漫画家を目指すのはやめたほうがいいです。厳しい言い方をしますが、あなたは漫画を描きたいというより漫画家という職業に憧れて いるだけではないのでしょうか。プロになる人は将来を思い悩む前に目の前の原稿に向かうものです。ただし、あなたが現在20歳前後で結婚を考えている 具体的な相手がいるのなら話は別です。その方との将来は目前に迫る現実であり、漫画家を目指すのと同じように大切に考えるのは当然のことだからです。 彼女も漫画家志望であるあなたの事を理解しているならば、共に支え合って夢を目指すこともできるでしょう。
さて、本題に入ります。漫画家に限らず個人事業主(自営業)は、サラリーマンや公務員の法定福利(健康保険、厚生年金、各種保険)に当たる国民健康保険、国民年金、個人年金などの手続きを個人個人で行わなければなりません。国民年金は日本に住所を有する20歳以上60歳未満のすべての人が加入を 義務づけられているもの(強制加入)なので、保険料を支払わなければ督促がきます。また、納税に関してはサラリーマンや公務員は給与をもらう時点で自 動的に差し引かれていますが、個人事業主は毎年2月16日から3月15日までに確定申告を行わなければなりません。その時期は漫画家も領収書の山と格 闘しなければならないので大変です。
現実の漫画家はというと、結婚をして家族を持っている方はさすがに個人年金や財形貯蓄、生命保険、入院保険等で、自分や家族の将来のために備えていますが、独身で若い時期、収入があまりない時期は健康保険の保険料さえ未納の方も珍しくありません。
若いうちは将来の家庭のことや老後のことを考えることなくその日暮らしをして、貯蓄もせずに収入のほとんどを趣味に費やす人がほとんどでしょう。
もともと漫画家は、連載の仕事がとぎれることなく入る中堅以上の作家になるまでは、収入が不安定な職業です。ですから、漫画家を目指していながら連載作家になれないまま年を重ねた人は、漫画家を辞めて安定した収入を求めて新たな就職口を探すことになります。当然、新卒よりずっ悪い条件での職探しとなります。漫画の技術を生かすならば、いくつもの仕事場を掛け持ちするプロアシ(アシスタントのプロ)や会社組織の漫画制作スタジオの社員という道もあります。
ともあれ、お姉さんの言うように堅実な将来設計をしたいのであれば、公務員かサラリーマンになって漫画は趣味にとどめておくのが無難です。それは、音楽、芸術、芸能、スポーツなども同じですね。
それを職業とできるかどうかは、才能よりも覚悟の差が大きいです。大きな夢を叶えるためにはそれなりのリスクが伴います。そのリスクを払っても、 自分の創ったストーリーをたくさんの人に読んでもらいたい、自分の創ったキャラクターをたくさんの人に愛してもらいたいという人だけが漫画家を目指す資格があるといえます。
そして、リスクはありますが、当たったときの見返りもまた大きいのが漫画家です。コミックス初版100万部出るような作家にな ったとしましょう。定価400円印税率10%ならば、100万部だと1巻あたり4000万円。週刊連載だと年間だいたい4冊コミックスが出ますから、 それだけで1億6千万。もちろん原稿料収入もありますし、既刊コミックスの重版印税も入ってきます。アニメ化すれば、原作使用料、DVDの印税、キャラクターグッズの版権使用料などもあります。年収数億も夢ではありません。そうなれば、将来設計で思い悩むこともなくなるでしょう。
当然のことながら、プロの漫画家になれるのは漫画家志望者のごく一握りであり、コミックスが数十万部売れる漫画家はさらにその一握りです。一見分の悪い賭けのように思えるかもしれませんが、漫画で成功するかどうかは宝くじを買うような「確率」ではありません。自分の努力の積み重ねで形にしていけるものです。コミックス100万部には努力のほかに運やタイミングも必要ですが、10万部は努力で手が届く数字です。それだけでも同年代のサラリーマンの平均より高収入になるはずです。何百枚もの没ネームの山を築いても夢のために努力できるかどうか、その覚悟があるかどうかを自分に問いかけてください。
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