【質問と解答】

Q:なんとしてでも自分の原稿を取り戻すためには警察に盗難届けを出したほうがよいでしょうか?そうすれば向こうもこちらが本気だということがわかると思うのですが。
 私は偶然にもものすごく面白く圧倒的にインパクトのある漫画がたまたままぐれで描けたので、某誌の新人賞に投稿しました。スキルが低いにもかかわらず、やはりインパク値が勝ったのでしょうか、受賞を果たしまして、賞金だけはもらったのですが、応募者全員に送られるという特製原稿用紙、テレカ、スクリーントーン、講評が貰えないままなんと、1年半が経過いたしました。また、原稿は全てお返ししますと応募要項に明示してあるにもかかわらず、全く戻る気配がない。
この某誌は噂では原稿返却に1年くらいかかると聞いていたので気長に待っていたのですが、やはり戻らない。葉書で問い合わせましたがなんの返答もないので、再度葉書にて問い合わせたのですが、やはりなんの返答もない。あまりに人を馬鹿にした話ではありませんか。なのでいよいよ今度は編集部宛てと編集長宛てに二通書いて送ろうと思うのですが、それでも無視された場合はこれはもう、れっきとした盗難事件だと思うんですよ。
同じ作品は作者にも二度と描けません。例えあれ以上のものは描けても、あれと同じものは描けないのです。私の心は怒りに支配されており、自分でも哀れなもんだと思う日々です。



A:あなたの憤りはもっともだと思います。同じ編集者として、入賞させて賞金まで出しているのに、その後何のフォローもしないなど信じられません。
ただ、警察に盗難届けを出すのは穏やかでありませんし、仮に届けを出しても受理されないかと思います。落選原稿とは異なり、入賞した場合は賞金が原稿の報酬とみなされます。作品の著作権と原稿の所有権はあなたにありますが、作 品の出版権は編集部に帰属することになります。ですから、一定期間の原稿の保管は編集部の権利として認められます。ただし、あなたの場合は、受賞後の編集部のフォローがないことを理由に、原稿返却を求めることができると考えられます。
 さて、編集部に原稿返却を求める際に大事なのは、対応の窓口──つまり自分の原稿返却の責任者をはっきりさせることです。
担当編集者がついているならばその方に窓口になってもらえばいいのですが、質問文の文面には書いてありませんが、あなたの場合はどうやら受賞したにもかかわらず担当がついていないようですね。でしたら、まず編集部に電話して新人賞担当の方を呼び出してもらい、返却の交渉をしてください。新人賞担当というものがいなければ、 電話を受けた編集部の方に事情を話して窓口になってもらってください。そして、いずれの場合も相手の名前を聞いておきましょう。名前を名乗らせることで、相手に自分が原稿返却の責任者になったという意識を持たせるのです。また、あなたのほうも、窓口を一本化することで以後の交渉相手が明確になります。ちなみにハガキは駄目です。相手を特定しない編集部宛のハガキは、内容が面倒なものは誰も引き受けたがらないのでたらい回しにされるか放置される可能性があります。おそらく、あなたの2度のハガキも意図的に無視されたのではなく、窓口を引き受ける人間がないまま時間が経って結果的に放置状態になっているものと推測されます。
 交渉の相手が定まったら、次に大切なのは交渉の際に感情的にならないことです。これまでの経緯からの怒りはぐっとこらえて、冷静な物言いをしましょう。感情的に怒鳴り散らしたり、盗難云々の話を持ち出すと、クレーマー扱いされて編集部のまっとうな対応が望めなくなる可能性があります。そうなると結果的に返却交渉が長引く恐れも出てきますので、得策ではありません。電話を受けた編集者は何もあなたの敵ではありません。これまでの経緯や事情をまったく把握していない白紙の状態の人間です。電話をする前に、あらかじめ伝えるべき内容をメモ書きしておき、順序立てて冷静に用件を伝えるようにしてください。あなたの置かれた状況にうまく共感してもらえれば、以後のやりとりでも相手が協力的になってくれます。
 最後にひとつ言っておかなければならないことがあります。原稿を返却してもらう時に一切の権利を引き上げるならば、授賞取り消しとなります。
その場合、先に説明したとおり賞金は原稿の報酬的意味合いもあるため、賞金の返還を求められることもあります。相手がそれを求めてこないこともあるでしょうが、他誌 への再投稿を考えているならば、賞金を返して一切を清算したほうが後々面倒がありません。
以上のことを踏まえて編集部との交渉に臨んでください。


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