【質問と解答】

Q:最近、楽しく漫画が描けなくて困っています。現在20代前半で少年漫画家を目指している者です。
以前は雑誌の漫画賞で小さな賞を頂いたりしてたのですが、担当さんはついてもらえませんでした。そこでもっと精進が必要だと思い、漫画作りのノウハウを片っ端から勉強しました。コマ割り、カメラワーク、読みやすい吹き出しの位置、伏線の張り方等‥‥。おかげで漫画の知識だけはつき、他の素人さんが描いた漫画を自分なりに批評したりできるようになりました。
しかし、勉強してから自分の漫画が描けなくなりました。物語は浮かぶしプロットにできるのですが、いざネームにしてみると、「キャラクターが物語に動かされている」感じがして納得できず、描くのが苦しくて断念してしまいます。またこのコマはこっちに、この情報はいらない、台詞が長すぎる、展開が他作品に似ているのでは‥‥など不安になってしまい、思うようにネームが進みません。1作くらいさっさと描き上げないと上達しないというのは、わかっているのですが。やはり知識が邪魔をしているのでしょうか。これなら勉強は最低限に抑えて好きなように描いていれば良かったかも‥‥と思っています。
長くなりましたが、苦しくても面白さ、読みやすさを優先して描き続けるべきか、知識にとらわれず自分の好きなように描くスタイルに戻したほうがいいのか、悩んでいます。また編集さんは作者が楽しんで描いているかどうか判断したりすることはあるのでしょうか?




A:マンガ入門書や技術書、専門学校で学ぶ漫画の技術はすべて、自分の作品をより多くの人に読んでもらうために先人の漫画家たちが見出してきた成果です。自分勝手に描いて自分さえ楽しめればいい、どんなにわかりづらかろうがついてこられる人だけついてくればいい、というなら趣味で描けばいいのです。ブログにアップするなり、投稿サイトに投稿するなり、同人誌を作るなり、漫画を趣味として楽しみながら公開する道は今はたくさんあります。
しかし、プロになりたい、商業誌で描きたい、より多くの人に読んでもらいたいと考えるならば、見やすい構図、読みやすいコマ割り、飽きさせない展開等々のさまざまな工夫が必要になるのは当然です。あなたは、そのことを初めて意識して創作を始めたことで、戸惑いを感じているのです。自分のためだけの創作から読者の存在を意識した創作への過渡期の悩みは、あなただけでなく多かれ少なかれ誰しもが経験することなのです。そこを乗り越えられるかどうかが、プロを目指す人と趣味にとどめる人の差といっていいでしょう。
ここで大事なのは、読者を意識するということは自分が楽しんで描くことの対極にあるのではないということです。作者が楽しんで描いてもいない漫画が本当に面白いと思いますか? もちろん、絵がきれいでストーリーがわかりやすければ一時は目を引きますが、あきられるのも早いです。作者の「私(俺)はこの自分の漫画が好きなんだー! この作品、面白いだろー!!」という熱情は作品にもにじみ出てきます。漫画の技術は、その自分の想いをより多くの人に効果的かつ効率的に伝えるためにあるのです。ですから、読者を意識することは自分が楽しんで描くことの延長上にあるのだと考えてください。


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