【質問と解答】

Q:某出版社に漫画を投稿している者ですが、最近投稿した漫画が採用されず、それなのに、その漫画のアイデアの肉付けだけ変え骨組みは一緒のアイデアが、漫画を投稿してすぐ発表前に使われました。
 公募で「このキャラクターの名前を考えてくれ」と、僕の考えた面白い要素とそれが指すものは、まさに僕の投稿した漫画のキャラクターそのものです。とてもシンプルなものなので編集の方は分からないと思われたのかもしれませんが、あんまりです。子供の頃からあたためてきた僕の命のようなネタをいいところどりしてつっぱねるのはいいことなんでしょうか? 他にも多々そういうことが今までもあったのですが、今回はあまりにも酷いと思ったので質問させていただきました。出版業界とはそういうところなのでしょうか? それなら僕は子供の頃からの夢を悲しいですが諦めたいと思います。助けてください!!!




A:もし事実ならとんでもない話です。あなたが出版業界に絶望する気持ちも理解できます。しかし、その前に一度冷静になって検討してみましょう。似たアイデアやデザインが偶然に同時期に生まれることはよくあることなのです。まして、骨組みが共通するアイデアやデザインは世の中に山ほどあります。自分のアイデアやキャラクターは、往々にして唯一無二のものと思いこみがちです。しかし、新人賞の下読みをしていると同じアイデアのストーリーが2本3本と重なることがあります。キャラクター設定のかぶりなど珍しくはありません。
 これはおそらくインスパイア元が同じなのでしょうね。創作は常に既成作品の影響を免れることなく、過去の創作者・創作物の積み重ねの上に自らのオリジナリティーを加えて新たな創作物を生み出す行為です。子供の頃からあたためてきたアイデアも、意識しているにせよ無意識にせよ発想の大本をたどればその頃に読んだ漫画や絵本、観たアニメやTVドラマやCMの影響を受けているはずです。
 もちろん、アイデアにしろデザインにしろ形は大きく姿を変え、今のあなたはインスパイア元も覚えていないかもしれません。しかし、同じインスパイア元から同じような発想の過程を経て類似のアイデアやデザインにたどり着く人は必ずいます。ですから、投稿した時期が公募企画と近いからといって安易に盗用という結論に結びつけないでください。
 というのも、キャラデザインやアイデアの盗用は編集部サイドにはメリットがないからです。すでに大ヒットしているキャラクターやアイデアの類似作品を作るというのならまだ話はわかりますが、名前公募は行ったものの、まだどうなるかわからない企画です。そこに盗用というリスクを上回るメリットは見出せません。もし大ヒット確実と編集部が考えて盗用を強行したと仮定しても、やはりおかしな話です。そんなに優れたアイデアを生み出した作者が投稿者の中にいたら、盗用のリスクを犯すよりも作者を登用するほうがはるかにメリットがあるからです。
 ただし、編集部にメリットがないとしても編集者の中に独断で盗用を行った愚か者がいた可能性は確かにゼロではありません。この点を検討してみましょう。「漫画を投稿してすぐに発表前に使われました」と質問文にありますが、公募企画が最初に行われた媒体と投稿してから公募企画までの具体的な日にちが問題になります。
 公募企画が雑誌で行われ、さらにこの期間が10日以内なら、盗用疑惑は否定され、偶然の一致となります。記事の入稿時期と、ネタ元があるにせよ漫画家にキャラクター画に起こしてもらう時間を考えると、最低でも雑誌の発売より2週間前には漫画家にイラスト依頼がなされなければなりません。かなり無茶な進行を行っても10日以内ということはありえないわけです。
 しかし、「漫画を投稿してすぐ」というのがそれ以上の期間だと、この方法では検証できません。あなたの作品と公募企画のイラストに意図的な類似性があるかどうか第三者に客観的に検討してもらう必要があります。漫画を読み慣れている友人数名に率直な感想を聞いてみましょう。
 その結果がグレーと出たとき、編集部にどう出るかはあなた次第ですが、白か黒かの証明はかなり困難だと考えられますし、仮に相手側が盗用を認めたところであなたの気持ちは晴れないでしょうね。しかし、どの世界にもろくでもない人間というのはいるものです。学校にも一般企業にもいます。そういう人間の一人にぶつかったからといって、その世界すべてがそういう人間ばかりではありません。
 最初に言ったように絶望する気持ちはわかりますが、そんなつまらない人間に自分の人生が歪められるのはもっと悔しいじゃないですか。気持ちを切り替えて、ほかの雑誌、ほかの出版社で再チャレンジしてほしいと思います。


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