【質問と解答】

Q:一度上京して、出版社や編集部の下見などしておくべきか悩んでいます。私はまだネームを完成させていなくて”ストーリーを進めるのに必死でキャラがただのでしかない”と人から言われ、それを直しているところです。しかし、私の姉から「一度東京に行ったほうがいい」と言われました。私は地方在住です。もちろん、本気でプロを目指しているのなら、地方でFAXや電話でのやり取りで意見を聞くのではなく、編集部まで行き、直接見てもらって意見を聞くことがとっても大切だというのは分かっています。でもそれは完成原稿がある場合ですよね。忙しい編集部の方に、原稿はおろかまだネームも描き上げていない、新人とも呼べない卵の卵である自分が、訪ねてもいいかと聞くのもおこがましいと思うのです。もう上京することはだいたい決まっていて、訪れるまでに1か月少しあるので、ネームを描き上げて、送る時にそのことを伝えようと思うのですが、原稿も仕上げていないのに何をしに行くのかわかりません。姉は、出来てなくても編集部を訪れて空気を感じてみてもいいんじゃない? と言っています。こういった状況の私が編集さんの所に訪れるのは、編集さんからは疎ましく思われるでしょうか?




A:質問文からはあなたの年齢やプロフィール、どういう雑誌を目指しているのかわからないので、高校生くらいで漫画を未だ描いたことがない方という前提でお答えします。
 まず、初めて持ち込みをするなら漫画作品を1本描き上げてからにしましょう。編集部にもよりますが、大抵の編集部ではネームでの持ち込み自体は受け付けてくれると思います。ただし、ネームで持ち込む際には過去の完成原稿の原画なりコピーなり、掲載歴があれば雑誌や刷り出し(製本前の印刷見本)も一緒に持っていくものです。実績のあるイラストレーターであれば、イラストの出力紙でもかまいません。そういう方でない漫画初心者であれば、仕上がりのイメージがなければネームを見せられたところで通り一遍のアドバイスしかできませんし、あなた自身実際に原稿を1本仕上げた経験がなければ、頭ではわかったつもりでも理解することはできません。それに、雑誌の編集部は無料漫画教室ではありません。持ち込みを見るのは、雑誌の次代を担える漫画家候補になりうるかどうか見定めているのです。だからといって持ち込みに入社面接に臨むように気負う必要はありませんが、自分の現在の力とどんな漫画を目指しているのか、最低限それだけは提示できる材料として持っていくようにしてください。
 厳しいことを言うようですが、持ち込みは小学校の社会科見学ではありません(あなたが小学生だったらすみません)。編集部の空気が知りたいから、将来本格的に持ち込みをする下見のつもりで、というくらいの気持ちであればやめておいたほうが無難です。相手の編集者の立場になって考えてみればわかるでしょう。持ち込みを受けるのにそれ専任の編集者がいるわけではなく、分刻みの通常業務の中でやりくりして時間を取っているわけです。それなのに、原稿を持参しないで見学気分でこられれば、心ない言葉を吐く人間もいるでしょうし、そうなれば傷つくのはあなたです。仮に、それでも漫画家志望の方ということで親切に助言をしてくれる方がいても、あなたのほうに素養がなければろくに理解できず、上京費に見合わない結果となります。本当に現場の空気を知りたいなら、作画の基礎をとことんやってアシスタントの応募をすることをお勧めします。もちろん、地方だとアシスタント先があまりなく、在住の作家に応募しても上京の面倒までは見てくれませんから、東京近郊に住まうことができたらの話ですが。まずは、目の前のネームを仕上げ、原稿を完成させることが第一歩です。


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