【質問と解答】
Q:月刊誌でデビューして単行本も3冊出してもらえた者なのですが、次回作が出来なくて壁にぶつかっています。
プロットを作ってもどれも同じような雰囲気の漫画になってしまうんです。そのテーマでは最初の連載でやったので同じ物は出せない、と担当さんにボツにされます。題材や舞台が民俗学的なものになりがち、というか自分の興味が偏っているのにも問題を感じています。色んなことに興味を持ちなんでも描けてこそプロだとも思うんです。しかし、二度目の連載で異なるジャンルに手を出して大きな挫折を味わっているのです。
最初の連載を終えた時点で自分の引き出しが少なくて、別のプロットを出してもボツ続きなのを見かねた担当さんが、私が全然知らないジャンルの題材で描こうとネタを提供してくれ、それで二度目の連載をやったんです。最初は目新しさで題材にも興味が持て、周りから「お前らしくない」と口をそろえて言われた漫画も、なんとか描けていたんですが、終盤になるにつれて精神的な行き詰まりを覚えてきたのと初めての長期連載の疲れでボロが出てしまいました。何とか原稿を落とすことはなかったものの、正直作画が間に合ってない半落ち状態を繰り返し、締め切りも破りまくりで、尽力して下さった担当さんにもご迷惑をかけてしまいました。「漫画家」を名乗る者としては最低な原稿を上げてしまい読者にも申し訳ないと悩みましたが、やはり漫画を描くのが好きなんです。同人誌とかじゃなく商業漫画でお金をもらいながら漫画を発表して漫画家でいたい、その為ならどんな題材の取材だってして描きたい‥‥だけどまたボロが出て行き詰ったらどうしよう‥‥だからといって自分のやりたい題材でやりたい雰囲気でやろうとしたら前にも描いたような話になるし‥‥と、思考が堂々巡りを続けています。誰しも本当に自分の中に芯のようにある訴えたいことは一貫したものじゃないでしょうか。有名な作家さんでも同一テーマでいくつも作品を描いていたりするしとも思いますが、一方で1作ごとにテーマやメッセージが全く異なる作品を描いている作家さんを見ると、一体どうやって自分の精神を切り替えてるのかとうらやましく思います。同じテーマでも味付けで変わると思うんですが、なかなかまとまらず、やはり似た印象になってしまいます。担当さんだけじゃなくて別のベテランの編集者さんの意見も聞きたくて相談しました。
A:作家のタイプとして、どんなジャンルやどんなテーマでも器用にこなせる万能タイプと、専門ジャンルに特化しテーマも一貫した専門タイプに分けられます。
あなたの場合、無理に前者を目指さず、民俗学がお好きなのでしたらそちらのジャンルのオーソリティを目指していいと私は思います。ただし、担当さんの同意が得られないのは、最初の連載が読者に評価されなかったこと(好評だったら2作目も同じジャンルを求められたでしょうから)と、新しい企画でもその連載と同じ轍を踏んでいると判断されたからでしょう。自分がやりたいジャンルにこだわるならば、以前の作品の欠点と向き合い、担当さんを説得できるだけのネームを作り上げるしかありません。キャラクターは? デザインは? 舞台は? 読者にとって入りやすい入り口になっているか? 雑誌の読者に合ったフックはあるか? 画面演出に新鮮味はあるか? ──検討すべき点は多々あるはずですし、専門ジャンルに特化する以上そちらの勉強もより深くやるべきです。企画が通る前ですから自費にはなりますが、できれば取材旅行もやったほうがいいでしょう。
また、質問文の原文(ここに掲載したものはご本人の希望で一部省略したものです)でひとつ気になった点は、メッセージにこだわりすぎるきらいがあるのではということです。テーマを大上段に振りかざして説教臭く押し付けられると読者は白けてしまいますし、構成もワンパターンになってしまいがちです。作品のテーマは、キャラクターの行動や言葉の端々から読者自身が感じ取ることで初めて共感できるものです。ですから、テーマはあえて前面に出さず読者へはエンターテインメントに徹しましょう。
商業誌で描くということは、お金を払ってもらって楽しい時間を買ってもらっているようなものです。現実はつらいことだらけだったり退屈だったりしても、漫画を読んでその世界に没頭できればその時間は外のことを忘れていられます。人が漫画を手に取るのは、笑ったり泣いたりハラハラしたりドキドキしたりしたいからです。そうした読者に自分の好きなジャンルや創り上げた世界の魅力を伝えるためにあの手この手を尽くすのが商業漫画家です。そして最初の読者(しかも好意的な読者)である担当編集者一人面白いと思わせることができないようでは、一般の読者を面白がらせることはできないと思ってください。
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