【質問と解答】
Q:今年A社でデビューしたばかりの新人です。ですが、夏にB社で開催される投稿者向けセミナーに参加したく、応募を考えています。セミナーの内容は、漫画家の先生の講演と実演、漫画家の先生に自分の作品を直接みてもらってアドバイスをいただき、その後編集さんのアドバイス──というような流れです(デビュー前に一度参加したことがあります)。デビューしてからは順調に載せていただいてるということもあって他誌に営業などはしていないため、他社さんや私に対して思い入れない方の意見を聞けていないのが不安で、セミナーの機会を利用して色々聞きたいと思ってます。他誌の新人育てても利益にならないし参加させて下さる可能性も低いですが、担当さんに相談してOKがでたら応募したいと考えています。ですが、この話、担当さん的には気分のいい話ではないでしょうか? 編集さんとの話もある場だし、「他誌行きたいの?」って感じるでしょうか? それならやめておいたほうがいいと悩んでしまい相談させていただきました。
A:セミナーに受講生という形で参加するということは、仮にあなたにその気がないとしても、今の担当さんにも先方の編集者にとっても営業と受け取られる行為です。それに、わざわざ他社の編集者の指導を受けに行きたいというのは、担当さんの指導を信じていない、もしくは飽き足りなく感じているということを宣言するようなものです。実際に担当さんがどう返答するかどうかはわかりませんが、もしOKを出したとしても内心は面白くないでしょうね。
また、いろいろな人の意見を聞くことは悪いことではありませんが、「他社さんや私に対して思い入れない方の意見を聞けていないのが不安」という自分に自信が持てない状態で担当さんや編集部と異なる評価や指導方針、方法論を耳に入れてしまうと、それに振り回されてしまう恐れがあります。作品に対する評価基準は雑誌のカラーや読者層によってもそれぞれ微妙に異なりますし、編集者やプロの漫画家と言えど評価基準には個人差があります。また、作品創りにおける方法論もひとつではありません。例えば、同じ原作を5人のプロが漫画化したとしたらひとつとして同じネームにはなりません。それは、キャラクターの把握の仕方、ストーリーやドラマの解釈の仕方、表現や演出の方針等々にそれぞれの作家のスタイル、漫画制作の方法論が反映されるからです。あなたはデビューしたての新人で、中級の域を脱して自分のスタイルを創りつつある時期だと思います。そのスタイルが固まり切っていない時期に他の方法論を耳に入れると、今あなたが担当さんと作品を創っていく中でとっている方法論との間に様々な矛盾が出てきてスランプに陥る危険性があります。これが初心者であればどのような方法論でも肥やしになりますし、仮に矛盾を意識したとしても投稿中の身であれば咀嚼して自分のスタイルを見つけていく時間が持てるでしょう。逆に、プロとして経験を積み自分のスタイルが確立できてそれに自信も持っている時期であれば、自分と異なる方法論を聞いても「ふーん、そんなやり方もあるんだ」「ああ、これは面白いなあ」と、自分のスタイルの中に取捨選択してうまく組み込んでいく余裕も持てます。ですが、質問の文面から判断するに今は多種多様な意見や方法論を取り入れるのに一番望ましくない時期だと思われます。ですから今は、担当さんの伝えてくれる評価と指導方針を信頼して自分のスタイルを固めていくことをお勧めします。それでも他の人の意見を聞いてみたいのなら、雑誌の作家さん数名との会合をセッティングしてもらい意見交換してはいかがでしょうか。セミナーで講師と受講生という形ではなく、食事会やお茶会で同期や先輩の作家さんと対等の立場で漫画を語り合うほうが今のあなたにはためになると考えます。