【質問と解答】
Q:私は背景の絵は初心者で、プロの漫画家さんの背景を見てはどうしたらこんなに細かく正確な背景が描けるのかと感嘆するばかりです。実際、自分は学校の廊下の一部分でさえ説得力のあるものが描けないため、プロの漫画家さんの緻密な背景が非現実的にさえ思えてしまう始末です。パースの基本の本を読み、その上でパースも取って描いているのですが、やはり納得がいかないのです。背景も、やはり漫画賞では重要になりますか? それとも、それなりに見えていれば成長段階だと大目に見て貰えるんでしょうか…? 背景カタログに頼ろうにも自分の描きたいアングルでない場合が多いですし、トレースばかりしていたら見て頂いている方に見破られるのではないかと不安です。家の外観や部屋の内装など、丸写ししなくても、いつかは写真を参考にしただけで自分なりのデザイン(?)が自由自在に出来るようになるのでしょうか?
A:背景も作画の一部ですから、新人賞の選考においても採点に影響します。それに、背景がちゃんと描けていれば、アシスタントの声もかかりやすくなり、そこでさらに実践的な技術を磨くことができます。アシスタントは漫画学校の講習者ではなくお金をもらっての仕事ですから、最低限の基礎ができていなければ、お荷物になるだけなので採用されません。よく「熱意だけは負けません」と口にする人がいますが、熱意というのは「独学でここまで描けるようになりました」という目に見える形で示さないと現場では通用しません。
背景作画においての基本は、トレースとパースです。トレースは、背景カタログではなく、自分で写真をとりましょう。別に一眼レフカメラのような高い機材でなくても、お手頃価格のデジカメや携帯のカメラでかまいません。背景カタログなどのありものの写真だけではわからない空間の広がりを肌で感じ、自分自身でシーンのイメージに合う構図を切り取ってシャッターを押すこと、構造物や自然物のディテールや質感を生の目で観察することが大切です。また、背景作画ではありませんが、自分自身が登場人物になりきってその場の空気感を感じることもまたキャラクター描写や演出の一助となるはずです。そして、撮った写真をひたすら忠実にトレースしましょう。漫画の背景の作画には、人物を描く時と同じように主線を入れてからトーンやスミベタを入れていくオーソドックスな技法、モノクロ写真風にスミベタとトーンで描く技法、ペン画風に細かく線を重ねていく技法、その両者の合わせ技などがありますが、どういう技法が自分の作風に合っているかはプロの既成の作品を見本にして判断しましょう。物の質感の表現についても、プロがどんなトーンをどのように使っているかを作品を通して知ることができます。トレースによって、構造物や自然物のディテールを把握し、質感の表現の仕方や影のつけ方がマスターできるようになってはじめて、パースを使って1枚の写真から角度を変えた背景を描いたり、資料写真のないところから背景を描くといった応用に移行します。ですから、背景が上手くなるには、異世界ファンタジーや未来SF、歴史物といったジャンルにいきなり挑戦するより、短編で構わないので実地で取材できる場所を舞台とした作品で技術を磨くことが望ましいですね。