【質問と解答】
Q:漫画家デビューして、1年ちょっとの新人です。漫画家は子供のころからの夢でした。夢が叶って幸せです。だからそこで満足してしまったのかもしれません。「売れる漫画を描こう!」と思えないんです。もちろん、売れたら嬉しいですし、たくさんの方に読まれていると思うとこれ以上の幸せはないと思っています。けれど、「読者の方に楽しんでもらえる漫画を…!」と考えられないんです。商業誌に載せてもらっているのだから売れなきゃ辞めろと言われそうですが、「描きたいものを描きたい!それが読者に支持されればいいな」と甘い考えかもしれませんが思ってしまいます。プロ失格でしょうか? こんなことを担当さんに相談しても失礼じゃないでしょうか?
A:漫画作品は市場に出れば「商品」ですが、「創作物」として生み出されるものである以上、それは創作者自身の内なる熱情と欲求によって描かれるべきです。簡単に言うと、「自分自身のために描く」「描きたいものを描く」という姿勢は間違っていないということです。そもそも、自分が嫌々描いた作品を人が読んでが面白いと思うでしょうか。自分はつまらないと思っていながら読者の好みに合わせて作品を描くとすれば、それこそ傲慢な考えです。市場リサーチをして時代の流行や読者の嗜好に合わせれば、最初は読者が食いつくでしょうが、すぐにあきられてしまいます。作者の思い入れのなさは作品に表れますから、ニセモノ臭や薄っぺら感がにじみ出てしまうからです。では、読者のことは無視して自分が思うように描けばいいかというと、それも違います。「売れる漫画を描こう」という言い方をすると、商業主義的に聞こえますが、「よりたくさんの人に読んでもらえる漫画を描こう」というのは漫画家として、クリエイターとしてごく自然な欲求にはなりませんか? 描きたいものを描いても、それが誰にも読んでもらえなければそんな虚しいことはありませんし、それはあなたが子供の頃に思い描いた漫画家像ではないでしょう。自分が楽しんで描いた作品に共感してもらって、読者にも楽しんでもらう──そうした欲求が漫画を描くモチベーションになっているのではないでしょうか。読者のことを考えて漫画を描くというのは、読者に迎合するということではあありません。自分の「楽しい」「面白い」をどうしたら読者にうまく伝えられるか、それを考えて作品を創るために読者を意識するということです。「自分のために描く」ということと「読者のために描く」ということを対極に置くことなく合致させる、それこそが漫画家の「プロ意識」だと私は考えます。「描きたいものを描きたい! それが読者に支持されればいいな」というあなたの考えは別に甘いものではなく、それが漫画家の基本姿勢です。ただ、そこで単に支持されればいいなと期待するだけではなく、支持してもらうためにはどう描けばいいのか、というところまで考えて作品創りができるかどうかにプロとアマチュアの境界があります。担当編集者は、漫画家の最初の読者にして最も身近な読者でもあります。自分の描きたいもの、自分の「面白い」「楽しい」をどう伝えればいいか、気軽に相談してください。