【質問と解答】

Q:漫画家の休載理由についての質問です。休載原因は様々でしょうが、作家サイドに休載するにいたる原因がなかった場合、そのときの読者に向けての休載理由はどのようになりますか? 以前、友人の作家が某作品のコミカライズを担当していましたが、そのコミカライズ作品のネームについて編集部と原作サイドとの間で意見の食い違いがあったらしく、このままわかりあえなければ漫画は休載しようと編集部から作家さんへ提案があったそうです。そしてそのための休載理由というのが、「作家が急病のため」だったそうです。もちろん、友人はその当時病気は患っておりませんでしたし、ネームについては担当編集が納得いくように描き、そこから先方との食い違いに至ったようなので作家さんには原因がないと思われます。このような場合、雑誌上で編集部が告知しようとした休載理由は業界では当たり前のことでしょうか? ちなみに、友人の作品は、話し合いの末休載には至りませんでした。




A:雑誌上で読者向けに告知される連載作品の休載理由として最も多いのが「作者急病」と「取材」でしょうか。「取材」は本当に取材旅行や資料の下調べが理由のこともあれば、単行本作業や連載の進行調整、雑誌編成の都合上の休載といった予定された休載の読者向けの理由としても使います。一方、「作者急病」は病気で原稿執筆自体が不可能という直接的なケースや病気による制作の遅れによって原稿を落とすという間接的ケースも含めた本当に病気が理由のケースが大半ですが、漫画家自身の怠慢やスランプによって原稿を落とした場合や、読者に理由を知らせるべきではないと編集部(もしくは漫画家自身やその家族)が判断したいわゆる「大人の事情」でも使われることはご承知だと思います。最後の「大人の事情」には様々なものがあります。漫画家の近親者が急死したり重病で入院せざるをえなくなった場合、漫画家本人や近親者が事故や犯罪に巻き込まれた場合、女性漫画家が急な出産をした場合(出産はおめでたいことではありますが本人が公表を望まないこともあります。また、予定日どおりであればあらかじめ休載予告ができますが、早産の場合は「急病」扱いせざるをえません)、作品の原稿に表現上の問題(差別・性・暴力表現等)が校了時に発見され修正が印刷に間に合わない場合、そして質問のケースのように原作サイドと漫画家・編集者サイドに意見の食い違いやトラブルが生じて締め切りまでにその解決が間に合わない場合です。ところで、あなたはどうしてこの質問をしようと思ったのでしょう? 自分のせいでもない連載休載を編集部に「急病が理由」とされかかった友人の作家のために憤慨しているのでしょうか? だとすればそれは思い違いです。編集部(というより担当編集)が守ろうとしたのは自分の面子ではなく、あなたの友人の漫画家が切った(描いた)ネームです。質問文にはコミカライズとしか書かれていないので原作が小説かアニメかゲームかわかりませんが、原作サイドというのは原著作権者なので、担当編集がOKしたネームであってもそちらが修正を求めてくれば基本的には応じなくてはなりません。ただし、相手は漫画とは畑違いの人間なので、時にとんちんかんだったり理不尽な修正要求がくることもあります。そうした時には、担当編集は漫画家の代わりに原作サイドを説得しなければなりませんが、相手が引かなければ交渉は長引きます。まして、原作サイドのネームチェックが遅くなって既に作画に入っていると、大幅な修正に応じれば印刷締め切りに間に合わなくなります。そして、やむなく休載せざるを得なくなった時、原作サイドと対立しての休載という舞台裏を読者に知らせることは、たとえ漫画家自身に非はなくとも漫画家や作品のイメージを損なうことになります。知っても誰も得をせず、作品そのものを楽しみたい読者にとっても不快になるだけの真実なら嘘も方便ということです。漫画家にとっては病弱扱いされるようで不快かもしれませんが、実際に休載原因としてもっとも多いのですから、甘受してもらえるとありがたいです。