【質問と解答】
Q:先日、とある少年誌の新人賞に引っ掛かり(とはいえ一番下の賞ですが)、授賞式に参加してきました。多くの編集さんやプロの漫画家の先生、またレベルの高い志望者の方々にお会いし、またアドバイスをいただき、とても良い刺激になりました。本当に充実した時間を過ごすことが出来、行って良かったと心から思ったのですが、それから漫画が描けなくなりました。受賞した方々の優秀作が載っている合本を頂き、読みました。どれも本当に素晴らしい作品ばかりで感動しました。しかし、その一方でなぜか「こんな内容でも上の賞が貰えるのに、なぜ自分は駄目だったんだろう」という気持ちにもなりました。自分の作品の未熟さも痛いほど感じたはずなのに、こんな気持ちになり、自分でも驚いています。そして更に、「これが評価されるなら、自分が漫画家を目指す意味が分からない」「漫画家にはずっとなりたくてやってきたけど、漫画で食べていけたら、だからなんなんだろう」と、あんなに魅力を感じていた将来の夢を冷めた目で見るようになりました。しかし、漫画家の夢を諦めるかといったらそんなことはなく、むしろ夢を諦めるという選択をするのがとてつもなく怖いです。私の作品を評価した方は口を揃えて「意外性、新しさが足りない」「読者のことを考えていない。まだまだ自己満足の領域」とおっしゃり、また身近な先生には「キャラクターをただ描きたいからなんとなく話を作る、といった傾向が見られる。しかし漫画は読み物なのだから、もっと自分の伝えたいメッセージを込めないと、意味がない。キャラはあくまで物語を読者に伝える媒体でしかない。今のままでは読者の目線になれていない」とアドバイスを頂きました。全くもってそのとおりで、反論の余地もありません。上位の賞の漫画はきちんとしたメッセージがあり、また読者への配慮がありました。意外性もありました。しかし、そう考えると「自分は読者に何を伝えたいのか」「漫画を通して何を描きたかったのか」と、筆が止まってしまいました。今まで、漫画を何本か描き、未熟な作品ながらも賞をいくつか頂けましたが、こんな気持ちになるのは初めてです。ネームも全没が続いていますが、「悪くはないが、前回の面白さには届かない」と担当さんに言われます。あんな評価の、読者への配慮も意外性もない、メッセージ性もない漫画に届かないネームしか描けないようではこの先が思いやられ、辛いです。もう次の新人賞まで時間がなく焦っています。つまり、授賞式に出た後、周りのレベルの高さに圧倒されたのに「なんでこれが」という気持ちにもなってしまった。漫画家になりたくてたまらないはずなのに将来を冷めた目で見るようになってしまった。自分が何を描きたいのかわからなくなってしまった──ということです。今までに感じたことのない気持ちが突然沢山渦巻いて混乱しています。どうすればもっと前向きに漫画を描いていけるでしょうか。
A:おそらく、新人賞の授賞式で一度にいろいろな刺激を受けたことによって、自分の足場が不安定になってしまったのでしょう。そのために、周囲の言葉を咀嚼する余裕なく過剰に振り回され、どうしたらいいかわからなくなっている状態だと思われます。また、上位の受賞作品に「こんな内容でも上の賞が貰えるのに〜」と考えたり、漫画家になる夢に対して醒めた感情になったことについても、自信を喪失したために自己防衛と逃避のために「酸っぱい葡萄」心理が働いたのだと考えられます。今の心理状態から脱するには、他者との比較を頭から追いやり、自分が何のために漫画を描きたいのか、どういう作品を描きたかったのか、どうして漫画家になりたかったのかといった自身の原点に立ち返ってください。