【質問と解答】

Q:1)知人に私の漫画を読んでもらったところ、「戦争というものを全く分かっていない漫画だな。戦争っぽさが全然出ていない。戦争映画とかを見て勉強したほうがいいよ」と言われました。確かに私の漫画は戦争を題材にしてはいますが、戦争はサブテーマであって、一番訴えたいテーマは「敵との間に生まれる友情」です。そんなに戦争の残虐さを描くのが大事でしょうか? 戦争と言っても、第二次世界大戦ではなく、第三次世界大戦で、第二次世界大戦を超えるほど残虐な戦争はこの先起こらないだろうなという考えが自分の中にはあります。だから私の描く漫画は残酷さが甘くなってしまうのでしょうか? 戦争の残虐さを描いたほうが売れるのですか?

2)私は志望する漫画雑誌で連載をいただくために連載用の漫画を今から書き溜めています。知人に漫画を見せたら、「ここ、区切ってあるの? まぁ繋がっているけど、この区切りの前を第一部、区切りの後を第二部としたら断然第一部のほうが面白いよ。第二部は第一部のような手探りで謎がだんだん明らかになっていくある種のワクワク感が感じられないんだよなぁ。でも第二部の、敵が命を懸けてこっち側の人間を助けるところは良かったと思うよ」と言われました。その感想を聞いて自信を無くし、いっその事第一部だけ連載できたらいいや、第二部は連載しなくてもいいやと投げやりになっていたのですが、よく考えるとその知人はプロの漫画家でも無いですしあまり漫画を読まない人なので、そんな人の言う事を真に受けないほうがいいかなと思い始めました。たった一人の知人より、世の中の大勢の読者の方が私の漫画を「面白い!」と言ってくれるほうが大事なので、その知人の言葉に左右されないほうがいいでしょうか? その知人は普段から私に対して「お前早く居なくなればいいのに」と言ってくるような人です。このような人の言葉は真に受けなくてもいいでしょうか? 聞き流しちゃってもいいのでしょうか? 第二部を「面白い!」と読んでくれる読者はこの先現れるでしょうか? 



A:1)テーマが「敵との間に生まれる友情」であれば、そこに読者への説得力があるかどうかが最も重要になります。そこに説得力がなければ、戦争を単なるシチュエーションとしての背景にした安っぽい漫画と見られてしまい、知人の方の言うように戦争が描けていない、そんな甘いもんじゃないという突っ込みを許すことになります。戦争の中での敵同士の友情を描きたいのであれば、その世界の人々の意識をまず描いておかなければなりません。今の日本の学生や一般の社会人と同じ意識を持ったキャラクターで描いても、それは学園スポーツもののライバル関係と同じになってしまい、戦争を舞台背景にする意味はありません。敵国や敵国民を一般市民は、兵士は、指揮官は、為政者はどう認識しているのか──立場や持っている情報ごとに「敵」に対する認識は異なるはずですし、キャラクターの立ち位置はその中でどこにあるのかも重要になってきます。また、戦場という極限状態での心理は平時とも異なります。第三次世界大戦を舞台にしようが、現在の読者の価値観に訴えて共感させたり、あるいは疑問を投げかけたりするのであれば、歴史上(現代でも)のあらゆる国、あらゆる時代の戦争が参考になりえます。架空のものを作るからこそ資料で確かな拠り所を築いていかなければ、説得力のない薄っぺらな人間ドラマにしかなりません。SFやファンタジー作品を描く場合でも、歴史書やノンフィクション、歴史を題材にした映画・小説・漫画は参考資料として自分に取り込んで消化した上で描くほうが設定に厚みが出ますし、ドラマにも説得力が出ます。なお、戦争を描くというのは残虐描写をするということとイコールではありません。確かに過剰なグロ描写を売りにしている作品はありますし、そこに食いつく読者が一定数いることは事実ですが、そのこと自体が戦争を描くことではありません。主人公のドラマの中で戦争の悲惨さを描写する必要も出てくるでしょうが、そこは程度問題になります。

2)まず、早く居なくなればいいのになどと言われるような知人に作品を読んでもらっているあなたの心理がよくわかりません。わざわざ「知人」という言い方をするからには、友人というわけではないのでしょうか。どういう関係かわかりませんが、最初の質問に出てくる知人と同一人物であるなら、あなたのことを下に見ている感じを受けます。「こいつが描くようなものならどうせ大したことはないだろう」という意識がはなからあるとすれば、読む際にもそうしたフィルターがかかるものです。一般読者にどういう受け止め方をされるか測るために漫画の知識があまりない人に読んでもらって感想を聞くことはありますが、マイナスのフィルターを通して読む人間であれば選定としては不適切です。仮に真剣に読んでくれた上での率直な感想だとしても、あなたの言うように一人の視点でしかありませんから、ネットの感想コメントと同じで鵜呑みにして振り回されるのではなく、あくまで参考意見として吟味する一材料という意識で受け止めるべきです。色々な人に何か言われるたびに心を揺らして方向性の舵を切るようでは、作品がぶれまくってしまいます。受け止めて自分も「なるほど、そのとおりだ」と納得して初めて意見を採用するようにしてください。また、作品の方向性に手を加える場合は担当さん(連載用のネームを描いているということは担当付きのはずですよね?)にまず相談するようにしましょう。