●ちば先生のどこにひかれてたんですか?
なんだろうなあ…、絵は好きだったね…。
あとやさしさだろかなあ。
やっぱり、先生と呼べるのはちばさんだよなあ、ちば先生だよなあ。
ほんとに、自然に先生って呼べるのはちば先生になっちゃうね。
俺にとって手塚(治虫)さんは手塚さんなのよ。
手塚先生って面と向かっては言うけど、やっぱ手塚さんは手塚さんであって、
ちばさんはちば先生なんだよ。
それね、俺の年代は意外と両極端に分かれるね。
本宮とか政岡(としや)とか、いわゆる意外と乱暴系(笑)?、
乱暴系はちば先生なの。
そんでインテリ系、そういうのは全部手塚先生なのよ。
両方とも好きは好きなんだけど、自分の傾向としてどっちかって言うと、
ちば先生系の、エンタテインメントってことだよな。
手塚先生はメッセージ性があるじゃん。なにか。
だから、ちばさんがメッセージをあまり表に出さない
ほんとに気持ちのいい世界を描くのが好きなんだろうな。
手塚さんの、人間とはこうあるべきだとか、自然とはこうだとか、
そういうメッセージ性が、
俺にとっては、漫画でなくてもいいじゃんとかってあるかもな。
まあ、エンタテインメントってところが好きだったんだろうな。
だって、読んできた漫画はみんな、ほんとにエンタテインメントだもの。
そういうコメディー、ギャグ系とか『ストップ!にいちゃん』とか、
漫画らしい漫画だったから。
それで、たまたま本宮のところに入っただけで…、
プータローでごろごろしてたら、おまえなにやってんだって言うから、
なんにもしてねえよって言ったら、
じゃあ資料係いるからやるかーって言って、
ほんで入ったんだからね。
●いわゆる漫画マニアではなかった?
漫画好きだったけど熱烈な漫画ファンではなかった。
ある種距離があったっていうのが、逆によかったのかもな。
匂いがついてないでしょ。
漫画っていうのはこういうもんだっていうのがないんだよ、
俺の中で。
映画と、やっぱり小説か、本を読んでたな。
なんだかんだいってやっぱり活字読んで、映画観て。
音楽は聴いてない…。
何が一番好きかって聞かれたら、やっぱり映画が好きってなっちゃうかな。
映画と漫画どっち好きかっていったら、映画が好きですってなるよな。
●少年時代に見た映画で一番心に残っているのは?
『トランペット少年』。日本の文部省のやつ。
講堂で巡回映画ってのがあって、田舎の講堂に回ってくるわけ。
講堂を全部暗幕しめてやるの。年に何回か。
それが楽しみで、そん中で『トランペット少年』っていってね、
トランペットを好きな少年がね、やっと買ってもらったトランペットかなんかを、
こんなことやってるんじゃないっていってね、捨てられちゃうんだ。
で、壊されちゃって、
それで落盤事故かなんかがあって線路に石がのっちゃって、
そこに列車がくるんだよ。
それをなんとか止めなきゃいけないって、
壊れたトランペットをなんとか吹かなきゃいけないって…。
すっごく泣く話。今でもそれをおぼえてんだから、そのストーリーを。
話は少し違うかもしれないけど、確かそのトランペットを吹かなきゃいけない、
列車を止めるためには。
それを一生懸命吹くシーンでね、俺、途中涙がぼろぼろ出てきちゃって。
そーいう泣く映画大好きだったの。
もちろん、いろんな映画好きなんだけど、チャンバラも。
俺の中では、その『トランペット少年』ってのがけっこう残ってるな。
あと『綴方兄弟』。日本の映画。
これはねえ、痛いの。
俺んちより貧乏な家庭があってね、そうするとかぶるわけよ、貧乏が。
これは観ていてつらかった。身につまされる。
[編集メモ]
* 『トランペット少年』東映、教育映画部 昭和30年 51分 監督/関川秀雄 エジンバラ国際映画際優秀映画賞受賞
●そのころの観ていたものからの影響は?
自分が感動して泣いてるものとか、そういうものがあるから、
やっぱりどっかで泣かせたほうが勝ちだとか。
泣くっていうことが感動なんだってどっかであるんじゃないのかな。
やっぱりどっかで浪花節的なものが、
俺の中で一番いいものだと思っているのかもしれないなあ。
ちっちゃいときからそうやって観てたわけだから…。
東映の昔のやくざ映画もはまって観てるわけだし、
勧善徴悪、しかも御涙ちょうだい、そんなのもいい。
そういうのも好きだし…、その反面、大薮春彦とかああいう暴力系のもはまるしな。
好みがさあ、俺一定しないでなんにでも行くんだよ、雑食なんだよ。
そりゃあ、貧乏の人間がなんでも食わなきゃってやつだから。(笑)
なんでも興味あって、なんでも面白きゃ面白いってやつで、
だから、ひとつのことでこれが最高だってのがないのよ。
これもいいけどこっちもいいぞって。
ねーちゃん見ててもわかるだろ、俺ひとりの娘じゃなくて
あっちにもこっちにも行くじゃないか。(爆笑)
●原点は貧乏?
ほんとそう、あらゆるものにハングリーなのは、それがあるから。
逃げだせないの。そういう意味じゃ。
そういうところに戻るのはやだから。
自転車こいでないと俺は倒れちゃうっていうのを、俺は自分でわかっているから、
その倒れたあとの悲しさってのがあるから、
いつも自転車こいでないと不安で不安でしょうがない。
|