●そのころの夢は?


だって、野球選手になりたいとかいったって無理でしょ。
そりゃあ、ちっちゃい時はほんとになりたいとか思うんだよ。
だけど、高学年のときは俺よりうまいやつもいっぱいいるし、
でかいやつもいっぱいいるし、だんだん現実がわかってくるだろ。
だから結局は…、
とりあえず考えたのは、
早く田舎から出なきゃ、早く田舎から出なきゃ。(笑)


●小学生のころからそんなことを考えていたのですか?

大学に行くってイメージはないよな。
とにかく、買いたい物を買えるようになりたいちゅーのがあるから、最初に。
そうだな、勉強はあんまり好きじゃないし。


●頭はいいほうだったんですよね

3クラスくらいしかないちっちゃな中学なんだけどね、田舎のね。
おやじが死んでちんたらやってたら、長男が帰ってきて、
テレビを欲しいっていったら、
学年トップ取ったら買ってやるぞって言うんで、
ちょっと真面目にやったらトップ取った。
物につられたんだけど。(笑)


●漫画家、漫画原作者になるなんて?

何になろうかっていうのはなくて、なんだろうなあ、あのころ…、
ただ、エンジニアにはなりたいと思ってたな。
エンジニアっていうか手に職持つ? 
漠然とだけど普通のサラリーマンではなくて、何かを作りたいってのはあったな。
そうだな、エンジニアじゃなくてよくわかんないけど技術者になって、
何か手で作りたいとは思ってたんじゃないかな。
小学校のころ、将来なりたいものはっていったときに、
確か技術者って書いたような気がするなあ。
何か作るの好きだったんじゃない、だから。
当時はみんな手作りだったでしょ、たこでもなんでも、飛行機でも。
全部自分たちで作るでしょ。
そういうのがけっこう…、集中してやる時はやるんで…。
ただ逆にあきっぽい性格があるからなあ……。

中学入ったときにはすでに女のケツおっかけてたわけだから、
よしゆきちゃんは女好きだからってことになってたわけだから。
もう、中学から色気付いてしょうがなかったから。(笑)
ちいさな中学んときはトップじゃないか。
いわゆる、よしゆきちゃんできるっていうふうになってるでしょ。
で、それが統合されて450人ぐらいの大きな中学に行ったわけよ。
そしたら、ほんと井の中の蛙だったってさ。(笑)
頭のいいのいっぱいいるんだもんよ。

それで、どうしようかっていうとき、
そしたら自衛隊があるっていうんでな、
中学出て、自衛隊入れるって。
富士見台の兄貴がさ先輩なの、同じ部隊の。
あの人は陸上だけど、おれは別(航空)で。
そしたら中卒でもけっこう出世できるってんで、
俺もどうしようかなって言ったら、兄貴がもう金稼いでいたから、
おまえ大学まで行かせてやるぞって言ったんだけど、
大学に行くにはあと3年間、
高校3年間を田舎で暮らさなきゃいけないでしょ。
で、おやじいないでしょ。
で、長男が戻ってきて長男と一緒に百姓やらなきゃいけないでしょ。
あと3年間。
それがもうどーうにもやだったな。
また3年間、高校行きながら百姓やって、また買いたい物買えないで…、
高校行ったら色気付くでしょ。
そうすると映画観に行こうっていっても映画観に行けないでしょ。

一度中学のときにそういうのがあって、
岡村んち農業だろっていって、今度稲刈り手伝い行っていいかって言うから、
おお、来いよって言ったら、町の連中きたんだよ、手伝いに。
そしたら一日で逃げかえりやがって、岡村はすごい生活してんなって。(笑)
そのときの屈辱感! このやろう!(爆笑)

そういうのがあるから、とにかく外に出たいわけ。
そしたらたまたま(自衛隊)あったからそっちに行っちゃえって。
とにかくもう、百姓やだったな。っていうかその…貧乏がいやね。
貧しいっていうのはほんとに人間へこむ。現体験としてね……。
あれは…、屈折するよなあ。

たとえば、教科書が買えないでしょ。新しいの。
そうすると、姉ちゃんの使うでしょ。姉ちゃんと3年離れてるでしょ。
姉ちゃんと3年離れてるともう教科書変わってるわけだよ。
そうすると、何ページ読めっていうと俺のだけ違うんだよ。
そうすると、おまえなに読んでいるんだよってなるでしょ。
そういうのって、小学生とか、中学生のころとかけっこうきついな。その悲しみが。
で、隣の見せてもらえってそれもやでしょ。
それは、貧乏だっていうことがあきらかにわかってしまうし。
ま、そういうのは4、5人いたんだけどね。クラスの中にも。
でもそういうのって、やっぱりすっごいいやだったな。(しみじみと)
ましてや色気付いて中学入って、町中の中学行ったわけじゃんか。
そうするとぜんぜん生活のレベルの違うサラリーマンの子とかいるわけ。
その子たちと一緒にいるってことが、なーんかね、
すでに、その時から屈折が始まるわけだよ。うん…。
なんかこう、なんでも被害者意識的に見えるわけ。
たとえば、俺が好きになってるあの娘が、こうやって俺のほうを見て、
よしゆきちゃんと言ったときのその目がなんかつらいなって、
けっこう傷つくわけよ。
………………………。

中学のときはだから漫画は読んでないんだよ。
中学とかってほんとは漫画にはまるでしょ。
ところが中学の時代は漫画は見てないよな。だから、小学校だね。
ほんと長野県って変で、中学のころ、学校に漫画持ってきたやついないよな。
漫画の話も出なかったなあ。
だから、そのころはほんとに、野球部…、部活そればっかりで、
中学時代は漫画より本読でた。
やっぱり小説だな。図書館行って本ばっかり読んでた。
うん。活字のほうだったな。
ほんで航空自衛隊入ったら、丁度サンデーとかマガジンとかあるでしょ。
全国から集まってきてるから漫画ファンとかいっぱいいるわけよ。
そんときに『紫電改のタカ』と『巨人の星』とか全部どーんと出てきて、
ああやっぱり面白いなあって、それでそっからはちば先生だね。
ちば先生の漫画全部追いかけてって。
だから、中学の間ぽこっと漫画あいてるねえ。
それで漫画週刊誌の世界に入って、ああ面白いものがあるなあって…、
それでも定期購読は一切してないね。
そこまで漫画ファンじゃなかったんだよね。
誰かが買ってきたのを読むか、単行本も持ってなかったし…、
俺、よく考えたら今まで単行本って一冊も、誰のも買ったことないな。
あんまり漫画ファンじゃなかったのかもしれない。
自衛隊では、みんなでお金出して買うのよ。
部隊に漫画好きがいるでしょ。
そうするとひとり1冊あってもしょうがないから
(マガジン、サンデー、ジャンプ)3冊をみんなで金出して、
小隊の部屋に置いておくの。
で、誰が見てもいいって、それで見てて、
それから4年間、そのあいだは学校でしょ、
いわゆる自衛隊の学校でしょ。そっから出て部隊に行って、
部隊に行ったときにはすでに漫画って離れてるね。
そのときにはまた小説だね。
だから、環境によって、漫画がある環境だと漫画見てるけど、
なくなった瞬間に、部隊行ったらほんとにその頃はもうばくちだね。
麻雀、ひまがあったら麻雀。それから競艇、いわゆる公営ばくち。
それと酒飲んでる、で、ひまなときは本読んでるっていうかんじ。
そのあと自衛隊やめてきて、プータローになって、
で、本宮(ひろ志)のところに転がり込んだでしょ。
初めて正対だよな、漫画にな。
だから、22〜23で初めて漫画ってもんに対して正対したってかんじだよな。
だから、なろうなんて思ってないし、なれるとも思ってないし、
漫画家の世界なんてさ。

[編集メモ]

* 『紫電改のタカ』ちばてつや 昭和38年〜40年 講談社 少年マガジン
* 『巨人の星』原作/梶原一騎 画/川崎のぼる 昭和41年〜46年 講談社 少年マガジン


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