《北海道について》
●先生にとって北海道はどのような思い入れがある土地ですか?
最初に来たのが自衛隊時代の19歳かな。
半年、レーダーサイトにいたのね。
やっぱ、北海道っていいのよ。
何がいいって、人がいい。それと自然もある。
なんかね…、のんびりするのかな。
(俺に)合ってる感じ。まあ、沖縄も好きだし、ハワイも好きだし、
なんだろ、それを考えると共通点ってなんだ?
セカセカしてないのか、どこも。
みんな田舎で、人間らしく生きているっていうか、
実にゆったりと生きてるわけ。
金銭的なものでなくて、経済的なものでなくて、
どっかこうゆったりしてるなって感じが好きなんだろうなぁ。
銭に負けてる身としてはね。
それがあって、やっぱり北海道いいなって思ってて、
それから競馬というか馬と関わるようになって、
それでなぜか『サンクチュアリ』やってるときに、
ある種逃げたわけだ。
作品に行き詰まって、いや、作品的には行き詰まってないんだけど、
一番佳境に入ったときに、もう、苦しくて苦しくて、とにかく…、
一番いいトコ、ど真ん中、さあこれからってときに、
とりあえず半年休ませてくれって言って…、
そりゃあ無茶だよなぁ。
でも、俺、今のまま書いていたら、
作品もつぶれるし、俺もつぶれるからって、
とにかく休ませてくれって言って、
このビッグレッドファームヘ来て、1ヵ月働かせてくださいって言って、
で、まったく漫画全部忘れて、
1ヵ月ずっと草刈りと下働きやってたんだよ、牧場の。
最初、馬に乗ろうと思ったんだけど、無理(笑)。
それで、1ヵ月ぐらいすると、
空気もあったろうし、人もあったろうし…、
体力もつくわけ、下働きやるわけだから。
けっこう健康になって、元気になって、
結局半年ぐらいの予定が3ヵ月ぐらいで復帰できたんだよ。
ちょうど43、44歳の頃かな。
ヤングマガジンでは『右向け左』を終えて、『パッパカパー』に入る前。
『右向け左』終わって、こっちは1本片付いた。
そんで、『サンクチュアリ』をなんとか休ませてくれって言って…、
だから休んだのは『サンクチュアリ』だけ。
それで、元気になったから、帰って『パッパカパー』始めたのよ、ヤンマガで。
あとで考えれば取材にもなったかなと思うんだけど、
そのころは…、来たころは、
本当にとにかく充電でもなく、とにかく逃げたんだよ。
だから半年とは言っておいたけど、はたして戻れるかもわかってないし、
そうこうしているうちに切られたらおしまいだし、
で、3ヵ月で帰っていったら、俺は切られなかったけど、
休ませてくれた編集長は異動してたから…、
一人の人生狂わしてもうた。
でも、ある意味では必要な休みだったし、
もしあすこで休まないで続けてたら、
もっときつい逃げ方してたかもしれないね。
完璧にもうノイローゼ状態で…、再起不能、
そこまではいかないないかもしれないけど、
近い状態にはなってたかもしれない。
受けてる作品を途中で休ませてくれということ自体が、
もう相当に行き詰まっていることだから。
佳境に入ってメチャクチャ面白い所なんだよ。
ところが、俺の中ではダメだー、これ以上は書けないっていう…、
多分、肉体的なものだろうな。
『右向け左』もラストで、けっこうすごいときだったのよ。
それまでずーっと書き続けてきたから、
どっかにアクが溜まってたんだろうね。
だから、どうしてもアク抜きしなきゃいけないっていうか、
オリが溜まってたって感じあるね。
『北斗の拳』は終わってて、いろいろなことがあって、
オリが本当に溜まってたのよ、俺の中に。
それをやっぱり、どっかで1回きれいにしとかないと…、
だからカミサンに言ったセリフが、
とにかく東京からいなくなる、北海道に行くからって。
今それをしないと、俺はこのままダメになるかもしれないから、
わかってくれって言って来た覚えがある。
牧場、ビッグレッドファームが受け入れてくれたから。
飛び込みじゃないけど、前から社長の岡田さん知っていたから、
ちょっと働かせてくれないって言ったら、いいよって。
ちょうどここ(牧場)が出来たころで、部屋も一つ空いてたの。
で、そこに転がり込んだって言うか、来て…、
だから、ここの坂路の草刈り、ほとんど一人でやったんだよ。
熊に出会ったりして…(笑)。
今でも、年に2回ぐらい来るわけ。
なんで来るかって言うとね、来てみてわかるでしょ。
ここに来ると、なんちゅーの、酸素っていうか空気がこう…、
森林浴なんかでいう、マイナスイオンって感じかなぁ。
あれが体の中にスウーッと入ってくる感じがするのよ、実感的にね。
そうすると、なんか血がきれいになるような感じがあるよな。
溜まっていたオリが、景色見て空気感じるだけで、
あー俺、今、血がきれいになっていくぞって感覚が確かにあるの。
だから、なんで来るかって言うとそれが好きなんだろうな。
やっぱりいいよな、清涼感っていうのがさ。
【編集メモ】
*『サンクチュアリ』1990(H2)年〜1995(H7)年 小学館 ビッグコミックスペリオール 漫画/池上遼一
*『右向け左』1989(H1)年11・12合併号〜1991(H3)年25号 講談社 週刊ヤングマガジン 漫画/すぎむらしんいち
*『パッパカパー』1992(H4)年1号〜1994(H6)年23号 講談社 週刊ヤングマガジン 漫画/水野トビオ
*『北斗の拳』1983(S58)年41号〜1988(S63)年35号 集英社 週刊少年ジャンプ 漫画/原哲夫
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