●そのころ、自立神経失調症は?


そのころは治ってたね。
もう、これでいいんだって…。
仕事に対しても、ある種…安定と、
自分の能力に対する…自信までは行かないけれど、
そこそこ行けるっていうものが付いて来たところで、
自律神経がおさまったんじゃないかな。

そのころ、そんなこと言ってられなかったしね。
でも、やっぱりなんかで悩んで壁にブチ当たると出そうになるよね、うん。
やっぱりなんか不安が持ち上がってくると、
あら? 来るぞって感じがあるから、
極力そういうふうに物事を見ないように見ないようにしてるよね。


●メガヒットにプレッシャーを感じたりは?

そういうのはないね。
…楽しくはないんだよね。仕事って、俺基本的に嫌いだから。
ただ…、いいシーンが書けて、
喜ばすっていうか、驚かすものが書けたときには……、
それはね…、自分の能力に対する…、
よっしゃ!っていうやつであって、人に対するのではなく、
自分に対する、よっしゃ!おまえすごい事書くじゃんって…、
そういう気持ちだよな。
とりあえず、驚かせるものが書けたときには自分に対してうれしかったね。


●『北斗の拳』の長い連載の中で、どんなときによっしゃ!となりましたか?

やっぱり、泣かせるところだね。
泣かせるところだけは完璧にこっちの感覚と読者の感覚は合うよね。
笑わせるところとか、殺すところなんかは、
これは微妙にずれがあるわけ、多分ね。
笑いのほうが好きな読者もいるし…、
笑いのほうじゃなくて、残酷…、
残酷って言っちゃいけないんだけど、
いわゆる、アクションシーンを好きな人もいるし。
そりゃあもう人それぞれなんだけど、
泣くってことに関しては絶対共通だなってのがあるから…。

だから、誰かが死ぬときって必ずこだわるわけ。
いい殺し方を、死なせ方をしようって…。
そうすると、いい死に方をしたキャラクターってのは
メチャクチャ人気が出てるのよ。
レイとか、サウザーとか、ショウか…、
ああいう、いい死に方をさせたキャラクターの回はドーンと来るし…、
ショウは十字架、石を背負ってって話でしょ。
だから今でもそういうシーンは俺の中でも残ってんのよ、うん。
いろんなことを…、もうずいぶん昔の話だから忘れてはいるんだけど、
いい死に方を書いたところだけは残っているよね。

ある意味、残酷だよね。
まあ、このストーリー自身が結構悲しみってのがテーマだからね。
背負って行くものの悲しさってのがテーマだったりするから。

(血のつながりや、兄弟の戦いがメインだったりしますしね)

そうだね、誰か、評論家が言ったんだよね。
「史上最大の兄弟喧嘩」って
タイトル付けたヤツがいたんだけど(笑)…。
それにしたって、ケンシロウとシンがあって、
そのあとジャギが出て来たときに、
この話このあとどうしようかって言ったときに、
とりあえずケンシロウだろう? 4だよな。
上に3人居るはずだぞ(笑)って。
ほんで、とりあえずキャラクター決まってないから、
兄弟を3人描いておいてくれと。
ジャギ含めて、あと2人はキャラクター決まってないから、
一人は体でかいやつで、
一人はちょっとスマートなかっこいいふうなやつ、
シルエットで描いといてくれと。
それで兄弟の話が始まったわけよ。
だから、最初から出来てたんでなく、全部途中から(笑)。
あとづけ!

(後半の方は実の兄が出て来て…)

そんなの全部忘れてるもん、俺(笑)。
ラオウの死んだあとからのストーリーは、俺の中で、今忘れてるもん。

(確かにラオウの死がピークだった気もしますが)

そう。
だから、史上最大の兄弟喧嘩があすこでパンと終わって、
ラオウの「わが生涯に一片の悔いなし!!」、
あれは「この作品に対して一片の悔いなし!!」という
俺の台詞だったわけよ。
それは多分、原先生もそんな感じだったと思うんだけど。

そのあとは、本来あすこでポンと終わってもいいんだけど、
そういうわけにもいかないでしょ。
そっから新しい展開にしなきゃいけないわけよ。
それで、何年後って形で出て来たでしょ。
そうじゃないと書けないから。
だから、そのあとの話っていうのは、
本当にもう作ったわけ、作るしかないから。
そうすると作るってことは小手先だよね、どっかで。
だから、そのあと…一生懸命作ってはいるんだよ、
作ってはいるんだけど、やっぱり…、
ある意味、焼き直しであるって…。

そうすると俺の中では、これって、今も思い出すようなシーンが
果たしてあったかって言うと…。
今、後悔しているのは、多分そこね。
あすこでもう少し、
自分の中でラオウが死んだとこで終わったと思わないで、
もうちょっと自分の中で、
これが新しいストーリーだと転換できたら、
もっと違うものになったと思うんだけど、
いかんせんやっぱりできなかったんだな。
多分、もう3年くらいやってて、澱もたまってるし…、
1年間ぐらい休みもらえてたら、
また違う展開になってたと思うんだけど…、
半年でも…。
すぐ次の号から5年後? 何年後かな?

ラオウの死でやっぱり沸点に達したわけで、
そのあとはやっぱりある意味温度は沸点まで行ったわけだから、
徐々に徐々に冷めて行ったって…形だろうね。
でも、一生懸命はやるんだよ、うん。
だって、そりゃ人気落とせないわけだから、雑誌的にも。
だけどやっぱり俺の中では…、
俺の中では一生懸命やってるんだけど、
やっぱりどうしてもテンション的に下がって行ったなって…。
自然に冷めて行くってのは仕方ないことなのかな。
ただ、今ちょっと後悔してるけどね、
まだちょっとがんばれたんじゃないかってことは。

やっぱり、新鮮さが無くなったんだろうね、俺の中でね。
だってどんな強敵が出て来ても…、
ラオウ以上の強敵が出たらいけたんだけど、
俺の中でラオウ以上の強敵は書けないって、
どっかで思い込んじゃったのもあるだろうな。

(原先生も?)

いや、原先生はわからない。
それは、あくまで原作者としての俺の中での感覚であって…、
原先生が、僕はもっと全然描けましたって言えば、
俺がごめんなさいって言うしかないし…。


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